引退していた山口百恵さん
ネットでの誹謗中傷が社会問題になっています、が、私の時代ではもっぱら文書でした。
中編小説『笑って西安』を老舗文芸誌に発表したおりのこと。
日中2人の主人公たちの会話が、すでに引退していた山口百恵さんのファンクラブの代表者とやらの気にさわったようです。
「我々の百恵ちゃんを侮辱する権利なんてお前にはない。殺されたいか」
小説の中で百恵さんを侮辱した覚えなんてありません。
主人公の中国人青年いわく、「日本に帰国したら、オレにプレゼント? 山口百恵のカセットテープを送って!」
相手役の日本人青年いわく、「百恵ちゃんなんて古いよ、もういないんだから」
「古くてもいいんだ! オレ、大好きだし、中国じゃ今だって人気者なんだからさ」
たったこれだけのことで、「殺されたいか」口撃です。拙作を最後まで読めば、まったく百恵さんをおとしめていないとわかるのに、やれやれ。
にしても、この抗議文(脅迫状もどき)を、担当編集者が、自分で開封した上で、内山安雄に転送してきたことです。いったいどういうつもりで???? アハハハハ。
宗教の勧誘法
宗教の、イヤで効率的な勧誘方法に遭遇。バスに乗っていたら、途中のバス停から乗り込んできた30年輩の女性が大きな声でーー。
「すいません。パスも財布も忘れてきたんで助けてください!」
近くにいたこの私、即行で小銭を融通しました。
「必ず返します」といって電話番号を書きつけた紙切れを私に差し出します。
「返さなくてもけっこうです」という私の電話番号を何度も聞くので、やむなく相手の手帳に書き込みました。
すると翌日、義理堅いことにも、どうしてもお金をすぐに返したいと。
で、喫茶店で会ったところがーー。自分の宗教がいかに優れているか、これから徒歩圏内にあるお寺に行こうと執拗に延々と。人の善意につけ込む勧誘方法、知恵者といおうか……。やれやれ。
海外放浪
直木賞作家、ベストセラー「新宿鮫」シリーズなどの大沢在昌さんと雑誌で対談したおりのことです。
当時すでに私は94カ国を周遊、1年の3分の1は海外を駆け回っていました。いろんな体験をしているのに、私の小説、ノンフィクション、エッセーではその9割が使われていないとのこと。
で、大沢さん、「内山安雄は濃い取材をしている」と持ち上げてくれました。
思えば海外周遊の9割は仕事に結実していなかったわけです。
が、この歳になってわかるのですが、かつての海外での体験のほとんどが、今では仕事に間違いなく生かされているようです。
海外を舞台とテーマにした原稿を集中的に日々書きながら、あの時代の海外放浪は無駄ではなかった、と実感しています。